ギャッベの醍醐味のひとつである、ユニークなデザイン。
織子の感性によって自由にデザインされた文様は、見る人の心を惹きつけてやみません。
イランの動植物などをモチーフにしたギャッベの文様には、自然への感謝や思いが織り込まれています。
本記事では、ギャッベの柄と色に込められた意味を解説いたします。
ギャッベとは
ギャッベはイラン南西部の山岳地帯に住むカシュガイ族の女性が織り上げる毛足の長い敷物のこと。
ペルシア語で「ざっくりした」「粗い」と言う意味があります。
カシュガイ族は、砂漠地帯と山岳地帯を移住しながら暮らす遊牧民です。
ギャッベは、カシュガイ族が暮らすテントの中に敷かれています。
天然素材ウールを100%使用し、染色から織りまですべて手作業で作られたギャッベは素朴で温かみのある風合いが特徴です。
ギャッベと言えば、イランの雄大な自然をモチーフにしたユニークな模様も魅力のひとつ。
織り子の豊かな感性で織り上げられるギャッベのデザインは、2つとして同じものはありません。
ギャッベの文様に込められた意味【動物の柄】
ギャッベには、イランに生息する動物が多数描かれています。
代表的な動物デザインは以下の通りです。
- ラクダ
- 羊・ヤギ
- ライオン
- 鳥
- オオカミ
- ヒト
それぞれ詳しく紹介いたします。
ラクダ
■ラクダ■
- 富
- 成功
1980年頃まで、ラクダは人間や荷物を乗せてくれる移動手段のひとつとして活躍していました。
(現在では、ジープやトラックなどが主な移動手段となっています。)
ラクダは家財を運んでくれることから「富」や「成功」の象徴とされています。
ラクダは、ギャッベの定番デザインとして取り入れられることが多い動物です。
群れで描かれていたり、人間や他の動物と一緒に描かれていたり…。
砂漠を背景に描かれるラクダは、イランの原風景を思わせます。
羊・ヤギ
■羊・ヤギ■
- 財産
- 不自由のない生活
遊牧民にとって羊やヤギは家族と同様に大切な動物です。
羊の役割はギャッベに使用するウールを採取するだけではありません。
乳からチーズやヨーグルトを作ったり、肉を食したり売買したり…。
カシュガイ族にとって、羊は遊牧生活の衣食住すべてを支える財産です。
羊やヤギのモチーフには、豊かな暮らしをもたらしてくれる彼らへの感謝の思いが込められています。
ライオン
■ライオン■
- 深い知恵
- 勇気
- 豊かな財力
- 力強さ
ギャッベが世界的に流行する火付け役となったのが、ライオンのデザインです。
ギャッベにおいてライオンは、「深い知恵」「勇気」「豊かな財力」「力強さ」などの意味があります。
イランにおいて、百獣の王ライオンは王や大きな権力の象徴。
太陽を背に剣を持ったライオンの絵(サーベルライオン)は、かつて国章としても使われていました。
かつてはイランにライオンが生息していましたが、現在では野生のライオンは絶滅したと言われています。
ギャッベの織り子は実物のライオンをほとんど見たことがありません。
そのため、織り子がそれぞれイメージを膨らませながら、思い思いのライオンを自由にデザインしています。
だからこそ、ライオンギャッベのデザインは個性的で多種多様なのです。
鳥
■鳥■
- 幸福
- あこがれ
鳥は神様からの使者だと言われています。
天へと伸びる生命の木とセットで織り込まれることが多いです。
大空を自由に飛び回る鳥のモチーフには、「幸福」や「あこがれ」と言う意味が込められています。
華やかな羽根を持つクジャクは、初期の王や美しさの象徴。
ギャッベの中でもとくに好んで使われることが多いです。
オオカミ
■オオカミ■
- 魔除け
花のようにも見えるこの模様は、オオカミの足跡を表しています。
家畜のヤギや羊を食べてしまうオオカミは、カシュガイ族にとって厄介な生き物。
そんなオオカミの足跡を、あえて描くことで魔除けの効果が得られると言われています。
ヒト
■人間■
- 子孫繁栄
- 子どもの健やかな成長
ギャッベには人間が描かれていることもあります。
ギャッベに描かれる人間はほとんどが「子ども」のモチーフ。
「子孫繁栄」「子どもの健やかな成長」への願いが込められています。
厳しい自然を生き抜くカシュガイ族にとって、子孫を繁栄させることはとても重要なことです。
自分の子供の数だけ、人間のモチーフを織り込むこともあります。
ギャッベの文様に込められた意味【植物の柄】
木々や花など、ギャッベには砂漠で育つ植物が描かれていることもあります。
代表的な植物デザインは以下の通りです。
- 生命の木
- ザクロ
- 花
それぞれ詳しく紹介いたします。
生命の木
■生命の木■
- 子供の成長
- 長寿
- 健康
- 生命
生命の木と言えば、ギャッベの中でもとくに人気の高いデザインのひとつ。
生命の木は、イランに生息する糸杉がモデルです。
小さく簡略化されたデザインや、糸杉をそのまま織り込んだようなデザインなど、織子のによって生命の木の織り方も様々。
砂漠という厳しい自然環境の中、大地に根を張り天空へと伸びる糸杉は「命」を表しています。
「子供の成長」「長寿」「健康」への願いが、生命の木のデザインに織り込まれているのです。
ザクロ
■ザクロ■
- 子孫繁栄
- 豊穣
ギャッベの中には、たくさんの実がなったザクロが描かれているものもあります。
ザクロは、イランが原産とされている果物。
ザクロの実は食料に、皮はギャッベの染料としても使われてます。
イランに住む遊牧民にとっても身近な植物のひとつです。
ザクロは一つの果実にたくさんの種を宿すことから、「子孫繁栄」や「豊穣」の意味があります。
花
■花■
- 春への憧れ
- 自然への感謝
ギャッベには花の模様が織り込まれていることもあります。
春に咲く、色とりどりの美しい花々。
自然の厳しい環境にあるカシュガイ族にとって、春は憧れの季節です。
春に咲く花の模様は、春への憧れや自然への感謝が込められています。
ギャッベの文様に込められた意味【図形や記号】
ギャッベには幾何学的な模様や記号が描かれていることもあります。
代表的な記号デザインは以下の通りです。
- 四角形の文様
- ひし形の文様
- 波線の模様
- Xの文様
- Sの文様
- Vの文様
それぞれ詳しく紹介いたします。
四角形の文様
ギャッベに描かれる四角形のデザインは、窓や井戸を表しています。
窓
■窓■
- 幸せな未来
四角形は窓のモチーフだと言われています。
カシュガイ族にとって窓は、外から家の中へ幸せが入ってくる場所です。
窓のモチーフを書くことで、幸せが入ってくるようにという願いが込められています。
また、カシュガイ族のテントには窓がないため、窓への憧れも込められているそうです。
井戸
■井戸■
- 大切なものへの感謝
四角形は井戸を表していることもあります。
乾燥した砂漠地帯に暮らすカシュガイ族にとって、水をくむことができる井戸は大変貴重なものです。
井戸には、大切なものへの感謝が込められています。
ひし形の文様
■ひし形■
- 伝統
- 部族のアイデンティティ
ひし形は、ペルシャ語で「トランジ」と言います。
遊牧民の誇りを表すトランジは、古いギャッベによく見られる模様です。
ギャッベでは、3~4個のトランジが連なって織り込まれています。
トランジは部族のアイデンティティーの象徴であり、配置によってどの部族に属しているかわかるそうです。
遊牧民にとっては、自分が何者であるかを表す大切な模様となっています。
波線の模様
■波線■
- 水の流れ
- 水への感謝
ギャッベに描かれる波線は、水場のモチーフです。
波線の向きは、水の流れを表しています。
縦向きの波線は川、横向きの波線は湖の意味です。
乾燥した砂漠地帯で、川や湖などの水場は井戸と同じく大切な生命線。
波線の模様には、水への感謝が込められています。
Xの文様
■Xの文字■
- 永遠
- 家族の幸せ
- 健康
Xの文字には、永遠と言う意味があります。
あるときは細やかな模様として、あるときは大きく大胆に描かれるXには、家族の幸せや健康が永遠に続いてほしいという願いが込められています。
Sの文様
■Sの文字■
- 魔除け
Sの字を横に向けたようなマークは、「ケルマック」と呼ばれます。
ケルマックとは、小さな虫のことです。
邪悪なものが入ってこないよう、魔除けの意味があります。
Vの文様
■Vの文字■
- 強いもの
- 期待
- 憧れ
ギャッベに描かれるV字型は、矢じりを表しています。
まっすぐに弓から飛んでいく矢じりは、強いもののシンボル。
風を切り突き進む矢じりには、期待や憧れの気持ちが込められています。
ギャッベの色に込められた意味
ギャッベと言えば、模様だけでなく色使いも個性的です。
ギャッベに使われる染料は、西洋茜やザクロなど自然素材のものが多いです。
最後に、ギャッベの色に込められた意味について解説いたします。
赤
ギャッベに使われる赤は、西洋茜の根やドングリなどを材料にしています。
太陽や元気な子供のほっぺを表す、生命エネルギーにあふれた色。
深みのある赤や、鮮やかな緋色などグラデーションも様々です。
とくにオールドギャッベでは、深みのある赤が使用されています。
黄色
黄色のギャッベに使われる染料は、サフラン、ターメリック、玉ねぎの皮、クルミの外皮など季節に合わせて異なります。
黄色は大地や昼の砂漠を表す色です。
ギャッベを織るカシュガイ族は、山岳地帯と砂漠を移住しながら暮らしています。
砂漠を表す黄色は、山岳地帯に移動したときに故郷の砂漠を思い出す色でもあるのです。
青
青色のギャッベは夜の砂漠や、青い空、そして豊かな水を表す色です。
染料には、インディゴが使用されています。
自然への感謝や、落ち着いた雰囲気を醸しています。
緑
緑のギャッベは、春の豊かな大地を表しています。
春は僅かな期間しかないため、カシュガイ族にとって大切な季節です。
自然への感謝を表す色でもあります。
青と黄色の藍染や、ジャシールという植物が使用されます。
無彩色
ギャッベと言えば、白や茶色、グレーなどのニュートラルカラーもよく見かけます。
「白」は始まりや無限の可能性を表し、ギャッベの中でも人気のある色です。
また、ニュートラルカラーのギャッベの中には無染色ウールを使用したギャッベもあります。
無染色とは、染め上げていないウール本来の色のことです。
染料の工程をなくすことにより、ウールの油分が過度に落とされることがありません。
そのためウール本来の風合いや機能性(調湿性・保温性など)を味わうことができます。
本記事のまとめ
本記事ではギャッベの模様に込められた意味について解説してきました。
ギャッベはイラン南西部のシラーズ地方に住むカシュガイ族によって手織りされた絨毯です。
カシュガイ族の女性の自由な感性によって織り上げられたギャッベ。
豊かな自然をモチーフにした、個性的で可愛らしいデザインが特徴です。
その模様には、自然への感謝や家族の幸せなど様々な願いが込められています。
ギャッベを眺めるときは、ぜひ模様に込められた意味にも思いを馳せてみてください。